電離とは何か?電離度と電離定数を使って理解しよう
イオンの電離に関する問題は大学受験でもよく出題されます。
てうまく計算しないと解答に到達することはできません。酸と塩基の反応によって起こる中和反応はよく題材として用いられていますが、電離度や電離定数を使っ
公式として覚えておきたい式を例題を交えて紹介します。電離とは何かを詳しく理解して問題に対策できるようになりましょう。
【目次】
1.電離とはどんな現象か?
イオンの電離に関する問題を解けるようになるためには、まず電離という現象について理解することが大切です。
塩化ナトリウムや酢酸などのように陽イオンと陰イオンの組み合わせによって成っている物質は水に溶かすことによって陽イオンと陰イオンに分かれます。
この現象を電離と言います。
ただ、必ずしも溶かした物質全てが電離を起こすわけではありません。
塩化ナトリウムの場合にはほとんど全てがナトリウムイオンと塩化物イオンに電離していますが、酢酸の場合には一部は酢酸分子のまま水に溶解します。
塩酸のような強酸についてもほとんど全ての分子が水素イオンと塩化物イオンに電離します。
この現象は電離平衡の偏りによって起こるもので、一般的に塩酸のような強酸はほぼ完全に電離を起こしますが、酢酸のような弱酸は一部しか電離しません。塩化ナトリウムのような電解質も通常は全て電離して水に溶解します。
2.質量作用の法則から電離を定式化してみよう
物質が水溶液中で電離する現象は数式によって定式化することができます。
電離平衡が起こったときに、どのような成分がどの程度の割合で存在しているかを求めるには質量作用の法則を用います。
これは化学平衡が成立しているときに、反応物質の各濃度の積と、生成物質の各濃度の積の比が一定温度の条件下では定数になるというものです。
つまり、物質ABを水に溶かすことによってA+とB-に電離する場合には、次のような式が成立します。
このときのKを平衡定数と言い、温度が決まれば一定の値を示します。
そして、このときにどれだけの割合が電離しているかを電離度と言います。初期のABの濃度をCとすると次のような式で表すことが可能です。
α=[A+]/C=[B-]/C
[AB]=C(1-α)なので、Kをα用いて表すと次のようにも表記可能です。
K=[A+][B-]/[AB]=Cα・Cα/C(1-α)
このような公式を用いることによって電離平衡を考え、各イオンの水溶液中における濃度を求めることが可能です。
3.酢酸の電離について考えてみよう
それでは電離平衡にある酢酸水溶液中の水素イオンの濃度を求めてみましょう。
酢酸は水に溶かしたときに水と反応してH3O+というオキソニウムイオンを生成します。
化学反応式では
CH3COOH+H2O→CH3COO– + H3O+
となります。
そのため、平衡定数をKとすると質量作用の法則により次のような等式が成り立ちます。
K=[CH3COO–][H3O+]/[CH3COOH][H2O]
このときに酢酸の濃度Cが十分に薄いときには希薄溶液とみなすことができ、 [H2O]はほとんど変化しないので定数にできます。
そのため、これを左辺に移して計算し、K[H2O]をあらためて酸の解離定数Kaと定義すると次のような等式になります。
Ka=[CH3COO–][H3O+]/[CH3COOH]
ここで、酢酸の電離度をαとすると下記のように濃度がわかります。
[CH3COO–]=Cα
[H3O+]=Cα
[CH3COOH]=C(1-α)
この等式を用いてKaについて解くと次の式が成り立ちます。
Ka=Cα・Cα/C(1-α)
この式を[H3O+]=Cαについて解けばオキソニウムイオンの濃度、つまり水素イオンの濃度を求めることができます。
この等式を解くのは一見すると簡単ではありませんが、電離度αが極めて1より小さいことを仮定すると簡単に解くことが可能です。
αが小さいときには近似的に1-αを1とみなすことができます。これを代入するとKaは次のように解くことが可能です。
Ka=Cα・α
すなわち、電離度αはKa/Cの平方根となり、水素イオンの濃度はCKaの平方根となります。
Cは酢酸の初期濃度なので与えられている数値です。酸の解離定数についても実験的に計測されて定数値として提示されるため、その値を代入して計算すれば良いということになります。
通常は電離度αが小さいという仮定を立てられるケースが問題としては出題されますが、実際にはαが1に近くて1-αを1に近似できないケースもあります。
このような考え方をする基準はαが0.04よりも大きい場合で、上述の仮定をして計算した結果がもし0.06などの大きな値になったときには二次方程式を解かなければなりません。近似式を用いない場合には、酸の電離平衡に関する等式をαについて解きます。
Ka=Cα・Cα/C(1-α)⇔Cα・α+Kaα-Ka=0
この式から二次方程式の解の公式を用いて計算することにより水素イオンの濃度を求めることができます。
4.弱塩基の電離についても同じ
酢酸のような弱酸の電離によって水素イオンの濃度がどうなるかを計算することができましたが、弱塩基についても同様にして計算することが可能です。
例えば、アンモニアの電離について考えてみると質量作用の法則から次のような等式が成り立ちます。
K=[NH4+][OH–]/[NH3][H2O]
希薄な水溶液であることを仮定すると[H2O]は定数として扱えるため、K[H2O]を塩基の解離定数Kbとして定義し直すと次のような式になります。
Kb=[NH4+][OH–]/[NH3]
この状況でアンモニアの電離度をαとすれば酢酸の場合と同様の等式が成り立ちます。
ただし、気をつけなければならないのが酢酸の場合には水素イオンの濃度を求めましたが、全く同じように計算すると塩基の場合には[OH-]を求めることになるという点です。
その結果から[H+]の濃度を求めるためにはイオン積を用いる必要があります。水の解離定数Kwを用いると次のような等式が成り立ちます。
Kw=[H+][OH–]
そのため、[OH–]から[H+]を求めるにはもう少し計算が必要です。
酢酸の場合と同様にして[OH–]を求めるとCKbの平方根となるので、これを上の式に代入して計算すると、[H+]はKwをCKbの平方根で割った値になります。
Kw、C、Kbは条件が整えば全て定数なので水素イオンの濃度が計算できるのです。
まとめ:質量作用の法則を使ってイオンの濃度を求めよう
物質がどれだけ解離を起こすかは条件によって異なりますが、質量作用の法則に従って計算すれば求めることが可能です。
酢酸やアンモニアのように弱酸や弱塩基を用いているときには解離度が比較的小さいため、水素イオンの濃度を求めるためには近似して計算できる場合がほとんどです。
パターンを覚えてしまうと簡単なので何度も繰り返し解いてみましょう!