有機化合物とは?一覧表と図で分かりやすく説明!
有機化合物は身の回りのありとあらゆる所で用いられているとても身近な物質です。
構成されている元素の多くは炭素、水素、酸素、窒素などですが、構造を変えるだけでその物質が持つ機能はがらりと変わります。
例えば、分子式を C4H8Oと書いた場合、メチルエチルケトンもエチルビニルエーテルも両方とも該当します。違いは構造だけで、それによって物質が持つ特性や機能ががらりと変わります。
このように、有機化合物を理解するためには、構造も理解する必要があります。
今回は、炭化水素系の化合物を例にとって、立体構造と構造異性体、さらに発展して結合次数について説明したいと思います。
1.有機化合物の基礎!炭化水素の立体構造を把握しよう!
まず最初に、炭素原子に原子が結合する場合、立体的にどのような構造になるのかを理解しましょう。
アルカン系炭化水素の構造をメタンを例に出して考えます。メタンはCH4で表される有機化合物です。炭素を中心にして、正四面体の各頂点に水素が結合しています。
この構造は最もバランスが良く、H-C-Hのなす角は109.5°です。この角度は頭の片隅に置いておきましょう。
炭素と周りの原子とは、単結合であるため、原子は自由に回転できます。
次に、アルキン系炭化水素(二重結合をもつ)を考えましょう。エチレン(C2H4)を例にとると、炭素間は二重結合で結合されており、図のような構造を取ります。
二重結合によって、炭素はお互いに回転することはできません。従って、構造は同一平面上に広がった構造を取ります。H-C-Hのなす角は120°です。
(炭素と単結合した原子のほうは自由に回転できます。)
直鎖型炭化水素の最後に、アルキル系炭化水素(三重結合をもつ)を考えましょう。
アセチレン(C2H2)を例にすると、炭素間は三重結合で結合され、すべての原子が同一直線状に並ぶ構造を取ります。アルキンと同じく、炭素間で回転することはできません。周りの原子は回転できます。
以上が直鎖型の炭化水素を例に挙げた立体構造でした。
さらにもう一つの構造を知っておいた方がいいので、環状構造を持つ場合を考えましょう。
シクロヘキサンを考えます。分子式C6H12で表せます。6つの炭素が環状に結合したものを6員環と呼びます。
6員環の立体構造は平面ではなく、ひずんだ形を取ります。これは4員環以上の環状構造ではひずみが生じます。
その中で、6員環の場合は2つのパターンにひずみ、それぞれを椅子型、舟型と呼びます。これらの構造は互いに変換可能です。
以上が、基本的な立体構造でした。最後にまとめると、表のようになります。
2.構造異性体について
さて、有機化合物は構造が重要であり、炭化水素系では四面体から直線的な構造までとることが分かりました。
ここからは、試験でも出題されやすい、構造異性体について説明したいと思います。
構造異性体とは、組成式は同じですが化学的な結合が異なる構造のことを指します。先ほどシクロアルカンで述べた椅子型と船型の配座異性体は互いに変換可能でしたが、構造異性体は一度作られると構造は変化しません。
ここが配座異性体と構造異性体の違いであり、重要な点です。構造異性体には、2つの形態があり、トランス型とシス型があります。
配座異性体と似た形なので、覚えやすいですが混同しないようにしましょう。なお、構造が変わるため、構造異性体の有機化合物には名称にトランス型かシス型かを明記しなければなりません。
例として、アルケンであるシクロペンテンに、臭素付加反応を行った場合の合成反応を考えます。
(臭素は、ジクロロメタンという溶剤に溶かしておきます。)
合成反応は上記のようになります。二重結合に反応性が高いハロゲン分子の臭素が近づくと、すぐさま二重結合が切断され、臭素が結合します。
この結合する臭素原子の位置によって、構造異性体が決まります。
図の左のように一方は上面に、一方は下面に原子が置換されたものをトランス型と言い、右のように両方とも一方の面に置換したものをシス型と言います。名称では、物質名の頭に英語でtrans またはcisと記載します。
上記の合成反応では、通常は構造定期に安定なトランス体のみ合成されます。
シス体は構造から予想が付くように、ある一方方向のみに原子が置換される状態は構造的にバランスが悪く不安定です。(不安定なトランス型で安定して存在している有機化合物も存在します。)
一般的には、構造がバランスの良いものの方が生成されやすいため、合成反応でどちらが生成されるか迷ったときは、まずはトランス型を疑ってみましょう。
構造異性体は他にも無限に存在します。例えば下記などが、炭化水素系で構造異性体を持つ有機化合物の構造式一覧です。
3.炭化水素の結合次数と安定性
炭化水素の構造異性体は、比較的構造が単純であり、無限に存在するため試験に出やすいです。すべて丸暗記するのではなく、二重結合と環状構造が絡む際に、構造異性体はないかを常に確認すればOKです。逆に言えば、二重結合や環状炭化水素の構造式と名称を問われたときは、構造異性体があると疑ってかかりましょう。
試験では、構造異性体を問わせるために二重結合や三重結合をもつ有機化合物の合成反応が出題されます。その構造の問題に関連して、結合次数の安定性について質問される場合もありますので、この項目で説明したいと思います。
炭素間の結合には2種類の結合があります。
1つはσ(シグマ)結合と呼ばれる非常に強力な結合で、簡単には結合は壊れません。単結合、二重結合、三重結合のすべてにおいて1つずつ存在します。
もう一つはπ(パイ)結合と呼ばれるもので、σ結合に比べて結合は弱く、比較的簡単に切断します。それゆえ反応性が高いのが特徴です。二重結合では1つ、三重結合では2つあります。
π結合があるほど反応性は高いので、3重結合が最も反応性が高く、単結合が最も反応性が低いです。
なお、結合の種類であるσ結合やπ結合は、学校によっては名称を習わないという場合もあるかと思います。事実、このような結合の説明を正しくするためには、電子軌道という分野を理解する必要があります。
しかし、この分野は大学の範囲であるため、なかなか説明が難しいです。本稿でも便利な用語としてとどめたいと思います。
4.有機化合物の練習問題
上記3つの化学結合(単結合・二重結合・三重結合)がどれくらい安定かを計算してみましょう。結合エネルギーの計算は、頻度が高くないため疎かになりがちですが、理屈は簡単ですのでマスターしておきましょう。
例題
炭素間の結合エネルギー(結合を切断するのに必要なエネルギー)はそれぞれ以下のとおりである。このとき、二重結合と三重結合におけるπ結合1つ分の結合エネルギーを求めよ。
C-C : 340 kJ/mol
C=C : 610 kJ/mol
C≡C : 830 kJ/mol
解
二重結合はσ結合とπ結合から成り立っています。
今、σ結合(C-C結合)の大きさは340 kJ/molなので、残りのエネルギーがπ結合の結合エネルギーです。
(二重結合中のπ結合の結合エネルギー) = (二重結合全体の結合エネルギー) - (σ結合の結合エネルギー) = 610 kJ/mol – 340 kJ/mol = 270 kJ/mol
同様に、三重結合では、
(三重結合中のπ結合2つ分の結合エネルギー) = (三重結合全体の結合エネルギー) - (σ結合の結合エネルギー) = 830 kJ/mol – 340 kJ/mol = 490 kJ/mol
π結合1つ分は、
(三重結合中のπ結合2つ分の結合エネルギー) ÷ 2 = 490 kJ/mol ÷ 2 =245 kJ/mol
計算結果をまとめると、このようになります。
二重結合 : 270 kJ/mol
三重結合 : 245 kJ/mol
π結合を1つ切断するためのエネルギーは、三重結合の方が少ないエネルギーで切断できることが分かります。これは、三重結合の方が不安定であり、反応性に富むことを示しています。
まとめ
今回は立体構造と結合に関する説明を行いました。
有機化合物において立体構造は極めて重要であることが分かりましたね。
四面体、平面、直線、椅子型/船型にひずんだ構造、そして構造異性体(トランス/シス)がありました。これらの構造を決める因子として、結合というものが深く関与していました。結合次数が高いと、π結合という安定性が低く反応性が高い結合が存在していることが分かりました。
有機化学は非常に奥深く、高校では暗記科目として避ける学生さんが多いかと思いますが、系統立てて順番に理解していけば覚える内容はぐっと減ります。
そのためにも、基本的な結合や構造から抑えていきましょう。