染色体の構造と数を覚えよう【遺伝子の担い手としての染色体】
染色体(chromosome)は、生物の遺伝子の発現と伝達の担い手です。
遺伝の基礎を学ぶ上で必須の用語なので、定義をきちんと覚えておきましょう。
ここでは、染色体の定義と構造、数などについて解説していきます。
【目次】
染色体の定義と遺伝子
まず、遺伝子および染色体の定義を見ていきましょう。
遺伝子と遺伝情報
生物の持つ形や性質の特徴を形質といい、形質が子や孫に伝えられることを遺伝といいます。
形質の一つ一つを決めているのが、遺伝子です。
遺伝情報とは、遺伝子の集合です。
生物のある種を規定するのに必要な遺伝情報全体を、ゲノムといいます。
遺伝情報は、タンパク質の“設計図”や、タンパク質を合成する際に働くRNA(リボ核酸)の“設計図”となる、DNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列として、細胞内で保持されています。
真核生物
核を持ち、染色体が核内にある細胞を真核細胞といい、真核細胞からなるからだを持つ生物を真核生物といいます。
一方、核膜を持たない原核細胞からなる生物(多くは単細胞生物)を原核生物といいます。
動物・植物・菌類は、真核生物です。
染色体の定義
染色体(chromosome)とは、本来、真核生物の細胞分裂時に観察されるひも状または棒状の構造体を指す用語です。
広義では、細胞周期に関わらず、真核細胞にあるゲノムDNAとタンパク質の巨大な複合体を指します。
現在「染色体」というときには、真核生物、原核生物を問わず、細胞から細胞へ、また次世代へと遺伝情報の伝達を行い、それぞれの細胞の分化や働きを調節することができる物質を指します。
塩基とたんぱく質からなる染色体の構造
真核細胞における染色体は、ゲノムDNAとタンパク質の巨大な複合体であると述べました。
ここでは、染色体の構造について、詳細に見ていきましょう。
染色体とDNA
遺伝情報を担っているのは、DNA(デオキシリボ核酸)です。DNAは、[塩基+糖+リン酸]という化合物(ヌクレオチド)を構成単位とするポリヌクレオチドです。
真核細胞では、DNAは単独では存在していません。ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きついて、ヌクレオソームというビーズ状の構造をしています。
ヌクレオソームは多数繋がって、クロマチン繊維と呼ばれる繊維状(数珠状)の構造をつくっています。
DNAの複製が終了すると、クロマチン繊維はさらに何重にも折りたたまれて凝縮します。凝縮したひも状または棒状の構造物は、光学顕微鏡下で観察が可能になります。
このような構造体を、染色体と呼びます。
原核生物の染色体
染色体は、細胞から細胞へ、また次世代へと遺伝情報の伝達を行い、それぞれの細胞の分化や働きを調節することができる物質であると述べました。
したがって、原核生物にも染色体はあります。
しかし、大腸菌などの原核生物では、染色体DNAはヒストンと結合していません。
ひとつながりの環状のDNAとして、存在しています。
細菌には、この他、プラスミドと呼ばれる小形の環状DNAも含まれています。
細胞分裂と相同染色体
ひも状または棒状の構造体である狭義の染色体が観察されるのは、細胞分裂時です。
細胞分裂には、大きく分けて体細胞分裂と減数分裂の2つがあります。
体細胞分裂は、からだを構成している細胞が増えるときに行われる細胞分裂です。動物では皮膚や骨髄など体の各部位で、植物では根端分裂組織・茎頂分裂組織や形成層などで行われます。
減数分裂は、生殖のための特別な細胞がつくられるときに行われる細胞分裂です。動物では配偶子(精子や卵子)が形成される部位で、植物・藻類・菌類など動物以外の生物では胞子が形成される部位で行われます。
細胞周期
細胞周期とは、体細胞分裂終了から次の体細胞分裂終了までの期間を指します。
細胞分裂を行う分裂期(M期)と、それ以外の間期に分けられます。
間期は、DNAの合成の準備をするG1期、DNAを合成するS期、分裂の準備をするG2期に分けられます。
G1期には、細胞がS期に向かうか、細胞周期から外れてG0期(静止期)と呼ばれる分裂停止の状態になるかが決まります。
S期には、DNAの複製が行われ、G2期には、タンパク質合成が盛んに行われて細胞分裂に必要な微小管などが合成されます。
M期には細胞分裂が行われ、M期は前期・中期・後期・終期に分けられます。
染色体の形態の変化
染色体という用語は、形態や状態を指すのではなく、遺伝子の保有や伝達を行う物質を指します。
したがって、染色体は間期にも分裂期(M期;前期・中期・後期・終期)にも存在します。
染色体を構成するDNAの量や状態は、生物種によって、あるいは細胞分裂の進行にともない、異なります。
そのため、細胞周期にともない、染色体の形態も変化します。
間期の染色体は、細長い糸状の染色体(クロマチン繊維)です。不鮮明で、観察できません。
間期のS期に染色体が複製されて、同じ糸状の染色体が2本ずつになります。
M期の前期には、糸状の染色体が凝縮してひも状になります。この時期から、光学顕微鏡で観察できるようになります。
M期の中期には、ひも状の染色体がさらに凝縮して棒状になり、はっきりと観察できるようになります。
この時期の染色体は、間期の複製により2倍になった染色体の凝縮によって形成されるので、縦の裂け目があるように見えます。
M期の後期には、紡錘糸に引かれて、棒状の染色体が裂け目から分かれます。
DNAと染色体の大きさ
ヒトの場合を例に、染色体の大きさについて見てみましょう。
間期のヒトの体細胞の核内では、DNAは数μmの長さで存在しています。
このDNAは、分裂期には長さ数~十数μmの染色体になります。
分裂期の太い染色体には、DNAが10000倍近くの圧縮率で詰め込まれているのです。
ヒトの相同染色体の数
染色体の数は、生物種によって異なります。
特に、有性生殖を行なう生物種では、二倍体(2n)の体細胞と一倍体(1n)の配偶子を持ちます。
二倍体の体細胞が有する2セット(1対)の染色体のことを、相同染色体と言います。
相同染色体
相同染色体は、形と大きさが等しく、同数の同一遺伝子または対立遺伝子が、同じ順序に配列しています。
相同染色体は、一方は母方から、他方は父方からそれぞれ受け継がれたものです。
有性生殖をする動物では、同じ形と大きさを持ち、雌雄に共通の常染色体と、雌雄によって組み合わせ(構成)が異なる1対の性染色体があります。
ヒトの相同染色体
ヒトの体細胞には、46本の染色体があります。
このうち、22対44本の相同染色体は、常染色体です。
残りの1対2本は性染色体です。
ヒトの性染色体のうち、大きい方をX染色体、小さい方をY染色体と言います。
X染色体は男女に共通して見られ、Y染色体は男性にしか見られません。
核相:染色体の構成
一つの細胞の核が持っている染色体の状態を、核相と言います。
核相は、染色体のセットの数で表されます。
体細胞のように染色体を2セット持つ細胞の核相を複相(2n)、卵や精子のように1セットを持つ核相を単相(n)といいます。
ヒトの体細胞の核相は、2n=46と表されます。
染色体と遺伝子
ある形質に関する遺伝子が、染色体の中で占めている特定の位置を遺伝子座といいます。
遺伝子座は、同じ種の生物では共通です。
対立遺伝子とは、ある同じ遺伝子に存在する複数の異なる遺伝子のそれぞれを指します。
個体の体細胞や配偶子が持っている遺伝子を、アルファベットなどの記号で表したものを遺伝子型といいます。
1対の相同染色体において、着目する遺伝子座の遺伝子が同じである場合をホモ接合(ホモ接合体)といい、異なる場合をヘテロ接合(ヘテロ接合体)といいます。
染色体のまとめ
今回、覚えてほしいことは、
- 染色体とは(染色体の定義)
- 染色体の構造(塩基とタンパク質)
- 細胞分裂と細胞周期
- 相同染色体とは
- ヒトの相同染色体の数
- 染色体と遺伝子の関係
です。
これらは、遺伝について学ぶとき、説明するときに必須の項目です。
きちんと覚えて、それぞれについて説明できるようにしておきましょう。