耳の構造と聴覚・平衡覚が生じる仕組みを図とイラストで解説
耳の内部の構造は非常に複雑なものになっています。
外からの刺激を受け取る器官(部分)を受容器(感覚器)といいます。
受容器には、光を感じる目、音を感じる耳、臭いを感じる鼻、味を感じる舌、温度や圧力などを感じる皮膚があります。
多細胞動物は、受容器で受け取った刺激は神経を通じて脳などに達して、その刺激を基にして動物は行動します。
この記事では、音を感じる耳の構造と聴覚・平衡覚が生じる仕組みについて、図とイラストを交えて解説していきます。
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【耳の構造のまえに】受容器と適刺激
受容器に存在し、特定の刺激に対して特に敏感な細胞を「感覚細胞(受容細胞)」といいます。
「適刺激」とは、それぞれの受容器が、自然状態で受容することのできる刺激の種類です。
ヒトの耳(聴覚)の適刺激は、約20~20000ヘルツ(Hz)ですが、イルカでは約150~150000Hzです。
音の正体は、空気の振動です。
音の高さは、音の振動数(単位はヘルツ;Hz)によって決まり、高い音ほど振動数が大きくなります。
音の大きさは、音の振幅(しんぷく)によって決まり、大きい音ほど振幅が大きくなります。
耳の構造と働き
まず、耳の構造と働きについて、図とともに見ていきます。
耳の働き
耳には,以下のような働きがあります。
(1)音を受容する聴覚器としての働き
(2)平衡覚を感じる平衡器としての働き
さらに、平衡としての働きは、
(1)からだの傾きを感じる
(2)からだの回転を感じる
という2つの働きに分けられます。
耳の構造
ヒトの耳は、図のように、外耳・中耳・内耳の3つの部分からできています。
外耳は、耳殻(耳介)と外耳道からなります。
外耳と中耳の隙間に、鼓膜があります。
中耳は、鼓室とも呼ばれ、内部には空気が入っています。
中耳には、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨という3つの耳小骨(じしょうこつ)と耳管(ユースタキー管またはエウスタキオ管とも)があります。
内耳には、うずまき管と前庭(ぜんてい)と半規管(はんきかん)があります。
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うずまき管は、聴覚器として音(音波)を受容します。前庭は、平衡(受容)器としてからだの傾きを、半規管は、平衡器としてからだの回転を受容します。
うずまき管の内部は膜で仕切られており、“3階建て構造”になっています。
1階に相当する鼓室階、2階に相当するうずまき細管、3階に相当する前庭階からなり、それぞれリンパ液で満たされています。
うずまき管の先端部(最も奥の部分)では、うずまき細管は存在せず、前庭階と鼓室階が連結しています。
うずまき管は、医学的には蝸牛(かぎゅう)、うずまき細管は蝸牛管といいます。蝸牛とはカタツムリのことで、哺乳類のうずまき管の形状がカタツムリに似ていることからこのように呼ばれます。
聴覚に関わる耳の構造と働き
次に、聴覚が生じる仕組みについて、イラストを交えながら見ていきましょう。
音の受容と聴覚が発生する仕組み
耳殻は、“パラボラアンテナ”の役目をして、音(音波)を集めます。
耳殻で集められた音は、外耳道を通って鼓膜に伝わって、鼓膜を振動させます。
鼓膜の振動は、鼓膜の後ろにある耳小骨に伝わり、ここで「てこの原理」によって増幅されます。
増幅された振動は、うずまき管の前庭階の入り口に相当する卵円窓(らんえんそう)に伝わります。
卵円窓の振動は、リンパ液の振動として伝わっていきます。
外耳・中耳の空気を伝わってきた振動は、ここで水(リンパ液)の振動となります。
空気と水の密度が大きく違うため、空気の振動を直接水に伝えようとすると、ほとんどが水面で跳ね返されて、うまく伝わりません。
耳小骨での振動の増幅により、水(リンパ液)に伝えられる際のエネルギーの損失を抑えています。
リンパ液の振動は、前庭階を進みながら、うずまき細管と鼓室階の間にある基底膜の特定の部位を波打たせます。
基底膜が振動すると、その上にあるコルチ器(コルチ器官)も振動します。
コルチ器官には、感覚毛を持った聴細胞(有毛細胞)があり、感覚毛の上にはおおい膜(蓋膜がいまく)という膜が接しています。
コルチ器が振動すると、感覚毛とおおい膜の間にずれが生じます。
このずれにより感覚毛が曲がり、聴覚細胞が興奮します。
この興奮(情報)が聴神経を介して大脳に伝えられて、聴覚が発生します。
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振動の行方
うずまき管の奥(先端部)まで進んだ前庭階の振動は、鼓室階に入り、鼓室階をうずまき管の入口方向に向かって進んでいきます。
前庭階の振動のうち、基底膜を振動させたものは鼓室階に入り、鼓室階をうずまき管の入口方向に向かって進んでいきます。
鼓室階の振動のほとんどは、正円窓(せいえんそう)を振動させることで消滅します。
残った振動は、中耳に出たのち、耳管に入って消滅します。
うずまき管の最先端部では、うずまき細管は存在せず、鼓室階と前庭階が連結していることを上で述べました。
この構造と、うずまき管に出入口(卵円窓と正円窓)が一つずつあることで、耳小骨(あぶみ骨)の振動が前庭階のリンパ液にスムーズに伝えられ、リンパ液中の振動の跳ね返りが防止されています。
基底膜の幅は、うずまき管の入口(基部)から奥(先端部)へ行くにしたがって、広くなっています。
音は、その高さ(振動数)によって、振動させる基底膜の部位が異なります(同調する基底膜の位置が異なる)。
低音(振動数の小さい音)ほど、より奥の基底膜を振動させます。
同じ高さの音であっても、大きな音は小さな音より、鼓膜やうずまき管の内部の基底膜をより大きく振動させます。
平衡覚(平衡感覚)に関わる耳の構造と働き
平衡覚(平衡感覚)とは、からだが傾いたり、回転したりする感覚のことです。
平衡覚を受容する平衡部(平衡受容器、平衡感覚器、平衡器官)は、内耳にあります。
からだの傾きを受け取る平衡器が前庭、からだの回転を受け取る平衡器が半規管です。
からだの傾きを受容する仕組み
前庭内には、感覚毛を持った感覚細胞(感覚受容細胞;有毛細胞)があります。
感覚毛の上には、耳石が乗っています。
耳石は、平衡石(へいこうせき)、平衡砂(へいこうさ)とも言い、ヒトの耳石は特に聴砂(ちょうさ)とも言われます。
からだが傾くと、耳石がずれて感覚毛が傾きます。
これにより、重力の方向の変化=からだの傾きを知ることができます。
からだの回転を受容する仕組み
半規管は、前庭から繋がる3つの半円状の管のことです。
3つの半規管は、頭の前方にある前半規管、後方にある後半規管、外側半規管からなり、これを総称して三半規管といいます。
からだが回転すると、半規管の中のリンパ液が動きます。
リンパ液の流れによって、感覚毛が傾き、感覚細胞が興奮します。
3つの半規管は、互いに直角に交わる面に位置しているので、ちょうどX軸・Y軸・Z軸のように、それぞれ別の方向のからだの回転を知ることができます。
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平衡覚が発生する仕組み
平衡器(半規管・前庭)で生じた興奮が、前庭神経(平衡神経)を通じて脳に伝えられると、そこで平衡覚が生じます。
内耳の構造
ここでは、さらに一歩進んで、内耳の構造について詳細に見ていきましょう。
内耳は、非常に複雑な形状をしているため、「迷路」とも呼ばれます。
迷路は、骨迷路と膜迷路からなります。
骨迷路は、ち密な骨で囲まれた複雑な管腔で、うずまき管(蝸牛)、前庭、(骨)半規管からなります。
管腔とは、出口と入口があり、貫通した管状の空所のことです。
骨迷路には、中耳の鼓室(空気が入っている空所)に面して、卵円窓と正円窓という2つの開口部があります(管腔)。
膜迷路は、骨迷路の中にある軟らかい膜性で、骨迷路とほぼ似た形状をした閉鎖管です。
閉鎖管とは、貫通していない管のことです。
膜迷路の内部は、内リンパで満たされています。この内リンパは、うずまき管内のリンパ液(外リンパ)とは組成が異なります。
骨迷路のうずまき管内にはうずまき細管が、前庭内には卵形のうと球形のうが、(骨)半規管内には半規管がそれぞれ収まっています。
これらは、骨迷路に比べて非常に細く、骨壁から離れて外リンパの中に浮かんでいます。
うずまき細管には蝸牛神経が分布しています。
卵形のう・球形のうと半規管をまとめて前庭器と呼び、内部には平衡覚の受容器があります。
前庭器に分布している神経を前庭神経といいます。
前庭神経は、蝸牛神経と合流したあと、大脳へ向かいます。
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耳の構造のまとめ
今回、覚えてほしいことは、
- 受容器としての耳の働き
- ヒトの耳の構造と各部の名称
- 音の受容と聴覚が生じる仕組み
- 平衡覚が生じる仕組み(前庭と三半規管)
です。
耳の構造については、模式図を描けるようにしておきましょう。
また、前庭と三半規管の構造を図示して、平衡覚が生じる仕組みを説明できるようにしましょう。