燃料電池の仕組みとは?例題を用いて詳しく解説!
高校化学の分野では、色々な種類の化学電池が出てきます。
その中でも地球温暖化に配慮した環境に優しい電池として最近注目されている燃料電池は、大学受験でも良く出題されています。
燃料電池は、高校化学で出てくる他の化学電池より複雑なので、「仕組みを理解できてない」という方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、燃料電池の仕組みについて丁寧に解説していきます!
なお、高校化学の化学電池を解説した記事もあるので、併せてご覧ください。
1.燃料電池の仕組みとは?
燃料電池とは、水素と酸素の酸化還元反応を利用して電気エネルギーを取り出す装置のことです。
大気に含まれている酸素を利用することができるので、水素を供給し続ける限り電流を取り出し続けることができます。
水素と酸素の酸化還元反応では、水が生成します。生成物が水だけなので、環境に優しい電池として知られています。
最近では、燃料電池自動車の実用化が進んでおり、燃料電池自動車用の水素ステーションを街中で見るようになりました。
この反応は熱化学方程式にすると
H2 + 1/2O2 = H2O + 286kJ
という発熱反応で書けます。この放出されたエネルギーの分だけ電気エネルギーを取り出すことができます。
2.燃料電池の仕組みと他の化学電池との違い
燃料電池は、「電解液」、「正極」、「負極」、「水素」、「酸素」から構成されています。
燃料電池では用いる「電解液」によって二種類に分類されます。
一つ目は酸性のリン酸水溶液を用いたリン酸型、二つ目は水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を用いたアルカリ型です。
上図には、例として電解液にリン酸(H3PO4)水溶液を用いたリン酸型の電池を示しています。
「正極」と「負極」は、多孔質材料(細かい穴が沢山空いた材料)と触媒粒子で構成されています。
触媒には、白金(Pt)やパラジウム(Pd)などの貴金属が用いられることが多いです。
「水素」と「酸素」は電極に吹きつけられます(水素は負極、酸素は正極に吹きつけられます)。
他の化学電池では、電極自体が酸化還元反応を起こします(例: ダニエル電池では、電極のZnとCuが酸化還元反応を起こします)。
それに対して、燃料電池の場合は電極自体ではなく、電極に供給された水素や酸素が酸化還元反応を起こします。
これが燃料電池をややこしくさせている原因です。
他の化学電池について学びたい方は、「化学電池とは?ボルタ電池・ダニエル電池・燃料電池の仕組みを徹底解説!」をご覧ください。
負極に吹きつけられた水素は、多孔質材料でできた電極内部に侵入します。
そこで、触媒粒子(固体)と電解液(液体)、水素(気体)の三つが互いに接した三相界面が形成されます。
この三相界面において、水素が酸化されて電解液の中に溶解します。この三相界面の形成が燃料電池動作の鍵になっています。
正極側(酸素側)についても、同じように三相界面を形成しています。
3.燃料電池の動作と反応式
ここからは、具体的なリン酸型とアルカリ型の燃料電池の反応を説明していきます。
電極は酸化還元反応を起こさないので、反応式には水素と酸素だけが出てくる点に注意しましょう。
燃料電池を理解するうえで必要な酸化還元反応や半反応式に不安がある方は、
酸化還元反応について解説した記事や半反応式について解説した記事もありますので、ご覧ください。
3-1.リン酸型燃料電池(酸性条件)
まず、リン酸型燃料電池について説明します。
負極に水素を供給すると水素がイオン化し、水素イオンとして溶液中に溶け込むと同時に電子が生成します(半反応式①)。
H2 → 2H+ + 2e–・・・①
電池は負極から導線を通って正極に向かって電子が流れます。
正極では負極から流れてきた電子は大気中の酸素を還元し、酸素が酸化物イオンになります(半反応式Ⓐ)。
その直後にリン酸水溶液中の水素イオンと反応して、水が生成します(半反応式Ⓑ)。
半反応式ⒶとⒷを足すことによって酸化物イオンが打ち消され、半反応式②のようになります。
O2 + 4e– →2O2–・・・Ⓒ
2O2– + 4H+ → 2H2O・・・Ⓓ
O2 + 4H+ + 4e– → 2H2O・・・②
半反応式①と②を合わせて二つの電極で起きた反応をまとめると、反応式③のようになります。
このとき、電子の数を合わせるために反応式①は両辺を二倍しましょう。
負極 H2 → 2H+ + 2e–・・・①
正極 O2 + 4H+ + 4e– → 2H2O・・・②
全体の反応 2H2 + O2 → 2H2O・・・③
以上から、燃料電池全体を考えると水素と酸素が反応して水が生成する反応になることがわかります。
3-2.アルカリ型燃料電池(塩基性条件)
次に、アルカリ型燃料電池について説明します。アルカリ型では、電解液がアルカリ性であることに注意しましょう。
負極に水素を供給すると水素がイオン化し、水素イオンとして溶液中に溶け込みます(半反応式Ⓒ)。
その直後に溶液中の水酸化物イオンと反応して水が生成します(半反応式Ⓓ)。
半反応式ⒸとⒹを足すことによって水素イオンが打ち消され、半反応式④のようになります。
H2 → 2H+ + 2e–・・・Ⓒ
2H+ + 2OH– → 2H2O・・・Ⓓ
H2 + 2OH– → 2H2O + 2e–・・・④
負極で生成した電子は導線を通って正極に流れます。
正極ではリン酸型と同様に、酸素が酸化物イオンになります(半反応式Ⓔ)。
その直後に溶液中の水と反応して水酸化物イオンが生成します(半反応式Ⓕ)。
半反応式ⒺとⒻを足すことによって酸化物イオンが消され、半反応式⑤のようになります。
O2 + 4e– →2O2–・・・Ⓔ
2O2– + 2H2O → 4OH–・・・Ⓕ
O2 + 2H2O + 4e– → 4OH–・・・⑤
半反応式④と⑤を合わせて二つの電極で起きた反応をまとめると、反応式⑥のようになります。
このとき、電子の数を合わせるために反応式④は両辺を二倍しましょう。
負 H2 + 2OH– → 2H2O + 2e–・・・④
正 O2 + 2H2O + 4e– → 4OH–・・・⑤
計 2H2 + O2 → 2H2O・・・⑥
以上から、塩基性条件の場合も水素と酸素が反応して水が生成することがわかります。
※塩基性条件の半反応式は複雑で覚えるのが難しいと思います。そこでオススメなのが、酸性条件の反応式から式を書き換えることです。
これができるようになると、塩基性条件を覚える必要がなくなります。
酸性溶液にはH+、アルカリ性溶液にはOH–が多く含まれるので、書き換えのコツは「酸性条件の式に出てくるH+を打ち消す」ことです。
具体的には、
(1)両辺にH+の数だけOH–を足す。
(2)片方の辺にH+とOH–が揃ったら、H+とOH–を消してH2Oに書き換える。
(3)両辺にH2Oが揃ったらH2Oを同数消す。
という方法です。
正極の方が複雑なので、正極を例に考えます。
酸性正極 O2 + 4H+ + 4e– → 2H2O
(1)両辺にH+の数だけOH–を足す。
O2 + 4H+ + 4e– + 4OH–→ 2H2O + 4OH–
(2)片方の辺にH+とOH–が揃ったら、H+とOH–を消してH2Oに書き換える。
O2 + 4H2O + 4e– → 2H2O + 4OH–
(3)両辺にH2Oが揃ったらH2Oを同数消す。
O2 + 2H2O + 4e– → 4OH–
これでアルカリ性型の正極における反応式が書けました。負極についても同様に書けますので、試してみて下さい。
4.燃料電池の仕組みに関する計算問題
最後に高校化学で、よく出題される燃料電池の計算問題と解き方を解説します!
※燃料電池の問題では触媒(PtやPdなど)がよく用いられますが、触媒は反応に関与しないため、焦ることはありません。
燃料電池の仕組み:例題
リン酸型の燃料電池から、電気量3.86×103 Cを取り出すために必要な水素は標準状態で何[mL]か(ただし、ファラデー定数は9.65×104 C/mol、標準状態における1 molの気体は22.4 Lの体積を占めるものとする)。
(※以下にヒント、回答と解説あり)
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ヒント(考え方)
水素量と電気量(電子の量)がキーワードです。二つのmol比は負極側の半反応式H2 + 2OH– → 2H2O + 2e–の係数に注目しましょう。
係数比がmol比に相当するので、水素:電子 = 1 mol:2 molを使って計算します。単位を考えて順々に計算しましょう。
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解法
3.86×103 Cは何mol分か 3.86×103 C ÷ 9.65×104 C/mol = 0.04 mol
これは水素何mol分か(mol比を利用) 0.04 mol ÷ 2 = 0.02 mol
この水素が占める体積は? 0.02 mol × 22.4 L/mol = 0.448 L
最後に単位に気を付けると 答え 448 mL
※注意点
実際の模試やテストでは、ファラデー定数や標準状態において気体が占める体積は書いていないことが多いので、暗記しておくようにしましょう。
「燃料電池の仕組み」のまとめ
この記事では、燃料電池の仕組みについて詳しく解説してきました。
燃料電池は仕組みを理解することが最も大事です。
仕組みを理解してから、半反応式を暗記して、計算問題を解いてみましょう。
半反応式と計算問題の解き方までマスターできると燃料電池で答えられない問題はなくなるはずです。
例題を沢山解いてマスターできるようにしましょう!