剛体とは?剛体にはたらく力のつり合いについてと静止条件
【 目次 】
1.剛体とは何?
物理の問題で言う剛体とは、運動の途中で形が変形したりせず、剛体の中身もすべて固体で重心の位置が変わらない物体のことを指します。
前半部は良いとして、後半部がピンとこない方は、殻付きの生卵と茹で卵を考えましょう。生卵は、殻があるので外見は剛体っぽいです。
回転させても殻は割れず、前半の説明に合っています。次に、殻付き卵と茹で卵を同時に転がしてみてください(一度はやってみることをお勧めします)。
すると、生卵よりも茹で卵の方がより遠くに転がるはずです。これは、卵の中身が固体になった茹で卵は、重心の位置が変わらないのに比べて、生卵は黄身と白身が液体で動くため、転がしても重心が常に移動してしまい、回転しにくくなっているからです。
物体の運動を考えるとき、この生卵のような重心が動く物体と、茹で卵のような剛体とでは運動が全く変わってしまいます。高校物理などで、みなさんが物理の基礎を勉強するには、生卵のような複雑な条件よりも、茹で卵のような剛体を考える方が都合が良いので、よっぽどの場合を除いて剛体の物体を扱います。
2.剛体と質点の違い
力学の運動の問題を解く際、普段何気なく物体を扱っていますが、それが質点か剛体かの区別は本来はとても重要です。
質点とは、文字通り点です。この点は質量を持った点であり、物体の大きさは考えなくてもよいような場合に用います。
例えば、ボールを自由落下させた場合のある時間の速度を考えたとき、空気抵抗を考えない場合はボールの体積は関係なく、
質量と重力加速度から求められる単純な問題になります。体積、すなわち大きさは関係ないため、ボールは点で表し、その点から鉛直下向きに作用線を描きます。よく見る問題のタイプです。
一方、もしもボールが落下中に受ける空気抵抗を考える場合、ボールの体積や落下面の表面積の情報が必要になります。
このときは剛体として考え、剛体における運動を考えるのです。
3.剛体では具体的にどんなことを考えるの?
剛体に働く力によって、物体は移動したり、回転します。回転せずそのまま移動する場合(並進運動と言います)は、これまでの質点系の運動と同じであるので説明は割愛します。
回転運動の場合、その回転する力のことをモーメントと言います。モーメントを調べることで、回転運動を説明できるようになります。回転運動では、すべての力の合力と、力のモーメントの和の2つの条件を考える必要があります。
その他には、剛体には面積や体積があるため、物体の重心を考える必要があります。重心も力のモーメントから求めることができます。
色々出てきましたが、順番に説明していきましょう。主に、力のモーメントさえできるようになれば、質点系の運動で学んだ力の釣り合いと力のモーメントの釣り合いを考えるだけで理解できるようになりますので、決して難しくはありません。なお、重心については詳細は別のコラムで説明しますので、ここでは説明を割愛します。
4.剛体にはたらく力
基本的なことですが、剛体にはたらく力は、その作用線上を移動させても結果は同じです。質点の点が大きくなった、と思ってもらってもかまいません。
①左から力Fを加える。
②反作用の効果で、青い力-Fが発生する。
一方、内部では、同じ作用線上の位置で力Fで押され、その反作用が発生する。これらは
相殺される。
③、②の現象が繰り返され、内部の力はすべて相殺し、図のように右端に力Fが残る。
結局、同じ作用線上を力が動いたことになる。
難しく聞こえますが、要は剛体の左から力を加えると、その作用線上の別の位置に左方向から力を与えたことと同じというものです。
5.剛体の運動:力のモーメントとは?
剛体の運動でとても重要な項目です。モーメントとは、回転する力のことです。例えば、厚紙(剛体の例)を画鋲で刺して固定した後、好きな位置を横方向に押すと、厚紙は画鋲の位置を中心にして回転します。
このように回転する力のことを力のモーメントと言います。
力のモーメントMは、力F×距離lで表されます。距離は、回転軸から力の作用線におろした垂線の長さです。回転軸から力の作用点までの直線距離ではありませんので注意しましょう。
モーメントの単位は「ニュートンメートル」と言い、「N・m」と書きます。また、回転方向は一般的には反時計回りを正と置きます。
力のモーメントの基礎をまとめます。
・回転方向→反時計回りを正とする
試験では頻出なので、必ず練習しておきましょう。例題として、次のモーメントを求めてみましょう。
|M1 |=F1×l=50×0.5=25
F1の力を与えると、剛体は中心軸を中心に時計回りするので符号はマイナス
∴M1=-25 N∙m
|M2 |=F2×l=30×0.4=12
F2の力を与えると、剛体は中心軸を中心に反時計回りするので符号はプラス
∴M2=12 N∙m
6.剛体にはたらく力の釣り合いと静止条件
剛体の回転運動を記述できるようになったことで、今度は回転運動も並進運動もしない=剛体が静止する条件を表せるようになります。
まず、剛体の静止条件は2つあります。
2.剛体における任意の位置を中心軸に取った場合、力のモーメントの和は0である。
1の条件は、質点系の力学と同じで、剛体が移動しないための条件です。数式で書くと、ベクトルを使うか成分ごとに分けて書くかの違いはありますが、下記のように表すことができます。
または
2の条件は、剛体が回転しないための条件です。剛体が回転しないためには、剛体のどの位置を中心軸に設定しても、その軸を中心とした回転モーメントの和が0でなければなりません。
数式で書くと下記のようになります。
2. M1+M2+ ⋯+Mn=0
どの位置を中心にとっても、時計回りの力と反時計回りの力が相殺されて、結果として回転する力はないという条件です。
余談程度で良いかと思いますが、剛体にはたらく力の中に、偶力というものがあります。これは、剛体にはたらく力の大きさは同じで、向きが正反対であるものを指します。
学校の定期試験では名前を問われる場合があるかもしれませんが、大学入試等でこの名前を問われる場合はかなり稀です。モーメントの計算もさほど簡単になるわけでもないため、これまで説明してきた力のモーメントを理解すれば大丈夫です。
7.剛体の運動:練習問題
学校で配布される問題集を解いたり、あるいは参考書や入試問題を見たりするとわかりますが、モーメントの問題もある程度ワンパターンです。
基本問題である、壁に立てかけた棒問題や棒の端に重りをつるす問題などはどの参考書にも掲載されています。基本問題を反復して練習し、計算に慣れましょう。ここでは、剛体の静止条件を使って解く王道な問題である、壁に立てかけた棒が滑らない条件を求めたいと思います。
【例題】以下の図のような滑らかな壁に、重さW(質量×重力加速度を計算した力のこと)の一様な棒(長さL)が立てかけてあります。この棒が滑らないためには、tanθはいくらか?なお、床の静止摩擦係数はμとする。
この手の問題は解き方は決まっています。
2.剛体の静止条件を満たすように式を立てる。
あとは計算すればおのずと決まってきます。
では、解説していきますね。
まず、1.力の図示ですが、すべて図示すると以下の図のようになります。(記号は何でもよいです。)
Aのように壁に立てかけた場合は、壁は垂直抗力が発生します。(NA)
Bでも、床に棒が乗っているため、垂直抗力が発生します。(NB)
また、棒を傾けているので、棒はずりずりと滑って落ちようとしますが、摩擦抵抗によって落ちずに立てかけられた状態を維持します。従って静止摩擦力Fが発生します。このBにかかる二つの力の合力, Rが抗力になります。
問題より、一様な棒なので、重さWは棒の中心にかかります。
これで1の作業が完了しました。後は、2の作業である、剛体(この問題では棒のこと)が静止する条件として、合力の和が0と、力のモーメントが0になるよう解けば良いです。
剛体の任意の点における力のモーメントの和が0より、点Aを基準にすると、(点Bでも同様です。基準とする点にかかっている力は、基準点からの距離lが0になるので、モーメントは0になります。故に、より多くの種類の力がかかっている場所を基準点とすることで、モーメント計算を楽にすることができます。この問題の場合、点Bを基準に置いた方がモーメントが1つ減るので、計算が楽になります。
解説では練習のため点Aを基準に取っています。)
両辺をLsinθで割ると、
N_B=Wより、
棒が滑らないためには、静止摩擦力Fが、F≦μNBを満たせばよいので、
これで、剛体である棒が静止するための条件が求められました。
問題によっては、抗力Rを求める場合もあると思います。その際は垂直抗力と静止摩擦力の合力から求められます。
8.剛体のまとめ
いかがでしたでしょうか。試験対策という意味では、剛体の言葉の定義を覚えることも大事ですが、どちらかと言えばモーメントを計算したり、剛体の静止条件を使って問題を解く力の方が重要だと思います。学校で配布される問題集で構いませんので、何度も反復して問題に慣れましょう。
モーメントは剛体に限らず、回転運動の運動方程式や惑星の運動などでも用いるため、使いこなせるようになりましょう。
まとめですが、剛体は大きさと質量があり、質点は質量しかありません。剛体の運動では、回転力のモーメントというものが重要です。
モーメントは力×距離で表されます。剛体が静止するためには、剛体にはたらく力の合力が0であることと、モーメントの和が0であることが条件です。