中学生・高校生、必見!AI 時代に、どんなチカラを身に付けるべきか?
「AI」や「人工知能」という言葉を目にする機会が増えてきたと思います。
「AI」「人工知能」とは「Artificial Intelligence」の略で、「人間くらいのレベルの知的能力を持ったコンピュータ」のことを指します。
AI の技術は、このまま発展していくと、ホワイトカラー(いわゆる「サラリーマン」のような、頭で考えることが多い職業)の仕事の多くや、マニュアル通りに行う仕事を、人間よりも上手くやるようになると言われています。
「受験のミカタ」のアンケートでも、なんと10代の半数以上が、「将来、ロボットに仕事を奪われることを不安に感じる」と回答しています。
そこで今回は、OECDのシニアアナリストである田熊美保さんと、文部科学省初等中等教育局教育課程課 教育課程企画室室長の白井俊さんのお話から、「AI が発達した時代でも仕事で活躍するために、中高生はどんな力を身に付けるべきか?」について見ていきましょう。
※本記事は、2018年8月13日に開催された「未来のマナビフェスー2030年の学びをデザインするー」での田熊さん、白井さんの講演「2030年の学び 世界の議論、日本の動向」をもとにしたものです。
本題に入る前に……そもそも、OECDとは?
しれっと紹介されたけど、田熊さんが働いている OECD ってなに?アニメのオープニングとエンディングの曲が入ったCD?
OECD とは、「Organisation for Economic Co-operation and Development」の略で、日本語では「経済協力開発機構」と呼ばれている組織のことです。
日本を含む35か国が加盟している国際組織で、各国の経済成長や貿易の拡大、開発途上国への援助などをめざす活動を行っています。
OECD では、教育への資金投資は、長い目で見ると、その国の経済発展に大きく影響するとして、教育政策の分析を行っています。
もう1人の登壇者である白井さんも、OECD でアナリスト(分析家)として働いていた経験があります。
ふーん。じゃあ、文部科学省初等中…長いな。こっちは?
白井さんが室長を務める「文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室」についても説明します。
「文部科学省 初等中等教育局」といいうのは、小学校などの「初等教育」や、中学校や高校などの「中等教育」についての仕事をする、文部科学省の部局のことです。
その中でも「教育課程課 教育課程企画室」は、教育課程の編成や、実施調査などを行っています。
ちなみに、政策や法律の言葉では、中学校や高校などを「中等教育」、大学や大学院などを「高等教育」と言います。
なるほど、勉強になるなあ~(いち、に、さん…26文字だ。最長熟語のギネス記録じゃない?)
1.AI 時代に無くなる仕事&残る仕事とは?
AI はどんなことが得意なの?
ではまず、近い将来に、AI がすることになると言われている仕事を見ていきましょう。
田熊さんによると、「教えるのが簡単な仕事・ルーティン(同じことを繰り返すこと)化されている仕事」は、将来、「(AI による)自動化・デジタル化・外注(他の会社などに任せること)化」されてしまうそうです。
仕事が「自動化・デジタル化・外注化」されると何が起こるのかというと、これまでその仕事をしていたサラリーマンが、会社から必要されなくなってしまうため、失業者や、自分のできる仕事・やりたい仕事に就けない人が多くなってしまいます。
ここで注意が必要なのは、手作業だけでなく、頭を使う知的な仕事でも、教えるのが簡単で繰り返し作業の仕事は、 AI に奪われてしまうということです。
そのため、田熊さんによると、AI にはできない=将来人間に求められる仕事は、「繰り返しの作業ではない分析的(頭を使う)仕事」や、「集団のルールに当てはめて考えるなどの、対人関係にかかわる仕事」だそうです。
でも、それって具体的にどういうことでしょうか?
皆さんと同じく大学合格を目指すロボット、「東ロボくん」の例でみていきましょう。
「東ロボくん」から学ぶ、ヒトにしかできないこと
白井さんが紹介してくれたのは、AI の技術を使って最終的に東大合格を目指しているロボット「東ロボくん」の話です。
2011年に始まった、数学者の新井紀子さんが率いる人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」通称「東ロボくん」。
2016年に受けたセンター模試で、東ロボくんはなんと5教科8科目中525点を獲得し、偏差値は57.1になったそうです。
5教科8科目の満点は950点ですから、単純計算して55%の正答率です。
また、驚くことにMARCHや関関同立といった難関私立大学の合格可能性が80%以上となったそうです。
しかし、東ロボくんは、文章などの「意味」を理解して問題を解いているわけではないそうです。
※↓気になる方は、話題の本「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読んでみてください。
この話から、白井さんは2つのことをお話してくれました。
1つは、AI の発展によって、「ホワイトカラーが分断される」ということ。
つまり、AI にできないことができる人は高度な仕事に就くけど、その一方で、AI に仕事を奪われて、やりたい仕事ができない人もいて、人々はその2パターンに分かれてしまうのではないかということです。
もう1つは、東ロボくんが言葉の「意味」を理解できていないように、AI にできなくて人間にできることは、「考えをまとめること、全体をつかむこと、論理的に話すこと」などではないかということです。
わたしたち人間にとっても、難しいことですが、中高生の皆さんは、これらの力を意識することがポイントになってくるかもしれません。
2.そもそも AI は、社会にどんな影響を与えるの?
そもそも AI ってなに?
東ロボくん、ぼくより頭いいんだな~。でも、色々書いてあるけど、あんまり AI について知らないから3%くらいしか分かんなかった。AI ってそもそも、なに?
AI とは、「人間くらいのレベルの知的能力を持ったコンピュータ」だと、さきほど書きました。
しかし、実は、本当に「人間くらいのレベル」で頭がいい AI は、まだ存在していません。
また、諸説ありますが、「AI が全部の仕事をやってくれて、人間は遊んで暮らせる」というような未来は、私たちが生きている間には実現しないだろうと考えられています。
なぜなら、AI には得意なことと苦手なこと、また「AI が勉強するためのデータ」が少なくて実質的にAI にはできないことなどがあり、AI がすべての仕事をできるようになるわけではないからです。
なんだ。じゃ、AI も大したことないじゃん。将来に備えて勉強しなくてもいいよね?ゲームでもしよっと!
あーあ!今の話聞くまでは、将来に備えて勉強する気満々だったのになー!ほんとに!
しかし、そういう訳にもいかないのです。
AI は、得意分野ではどんどん発展しているので、さきほどの田熊さんのお話にあったような「教えるのが簡単な仕事・同じことを繰り返す仕事」は、AI に奪われてしまうと考えられています。
ゲーム楽しいな~
AI が社会に与える影響
みなさんは、世界史で18世紀イギリスの「産業革命」について習ったことがあると思います。
産業革命とは、産業にかかわる技術が急激に発展し、仕事が効率的になって、工場にあまり多くの人が必要なくなったり、それまで人間が行っていた様々な仕事を、機械がおこなうようになったりしたことです。
産業革命の直後、機械に仕事を奪われた多くの人たちが失業者となりました。
田熊さんのお話によると、AI の登場で、産業革命直後のような状況になることが予想されるそうです。
なぜなら、今から10年くらい後の近い未来に、「教えるのが簡単な仕事・同じことを繰り返す仕事」を、AI が人間から奪ってしまうと思われるからです。
しかし、産業革命後も、教育の普及などによって「機械にはできない仕事」をできる人が増え、社会の発展が技術の発展に追いついたことで、失業率は下がっていきました。
なので、AI が人に代わって仕事をするようになっても、「AI にはできない仕事」ができるようになれば、仕事がなくなってしまうということを避けられると考えられます。
ふむふむ。でも逆に、タイムマシンを発明して、産業革命以前の世界で暮らすっていう手もあるよね!
3.これからの時代に必要とされる力とは?
世界の状況
田熊さんによると、これからの世界は、どんどん「VUCA」になっていくとのことです。
「VUCA」とは、それぞれ、4つの単語の単語の頭文字で…
はい、整いました!Vacation Ultraviolet Chugakusei Aho、「夏休みに日焼け止めも塗らず紫外線に直当たりで日焼けし続ける中学生はアホ」
正解は「Volatile(不安定な)」「Uncertain(確信のない)」「Complex(複雑な)」「Ambiguous(あいまいな)」です。
やばそう
先ほどの話でもあったように、AI の発達といった「テクノロジー」、地球温暖化などのグローバルな「環境問題」、移民など多くの人々が国境を越えて移動する「グローバライゼーション(グローバル化)」、日本でも問題になっている「格差」、都市に人々が集中しすぎる代わりに地方では人口が減っている「都市化・過疎化」、低い選挙率などの「社会参画」などなど…
日本を含め、世界で様々な問題があふれています。
ひ、ひえー
それらの状況も踏まえて、OECD では、「Education 2030」というプロジェクトを行っています。
「Education 2030」とは、2030年という近未来で必要とされる能力を考えながら、「現代の生徒が成長して、世界を切り開いていくための知識・スキル・態度・価値とは?」「それらを習得するための教育とは?」という問いについて、各国が答えを見つけるために、OECD が手助けをするというプロジェクトです。
ここからは、「Education 2030」プロジェクトの「OECD Learning Framework 2030(2030年に向けた学習枠組み)」で説明されているものの中から、これからの時代に必要とされる能力について見ていきましょう。
これからの時代に必要とされる力とは?
田熊さん、白井さんのお話から、現代の生徒に身に付けてほしい能力に「エージェンシー」と「コンピテンシー」があるとわかりました。
①エージェンシーとは
エージェンシーとは、「社会参画を通じて人々や物事、環境がより良いものとなるように影響を与えるという責任感」であり、また「進んでいくべき方向性を設定する力や、目標を達成するために求められる行動を特定する力」とされています。
さっぱりわからないぞ
白井さんによると、簡単に言ったら「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」だということです。
つまり、世界や身の回りの様々な問題について、自分が変えていくぞ!という責任感と、その実現に向かう行動力ですね。
また、変化を起こすための目標を立てたり、その目標に対して「きっと達成できる!」と希望を持ったり、
自分の所属する社会に対するアイデンティティ(社会や地域の一員だと思うこと)を持ったり、自己効用感(自分はやればできる子!ということ)を持ったり、ということも含むそうです。
②コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、知識・技術(スキル)・価値観を含めた能力のことです。
例えば、知識と言っても、ただ教科の単語を暗記するだけでなく、「英語的な考え方」「歴史的な考え方」「科学的な考え方」などを身に付けるつもりで勉強に取り組むことが大切だということです。
その中でも、OECD では、社会で求められる3つのコンピテンシーを定めました。
(1)新たな価値を創造する力
…適応力、創造力、好奇心、新たなものに対してオープンな意識。他人と協力しながら、これまでの知識から新たな知識を作り出すイノベーションの力。
(2)対立やジレンマを克服する力
…自分とは違う立場の人々の気持ちを考える。二者択一の回答を出そうとするのではなく、相互の関係やつながりを総合的に考えながら、解決策を考えていく力。
(3)責任ある行動をとる力
…(1)、(2)の前提になる力。倫理的に行動すること。過去の経験や社会的・個人的な目標、これまで教えられたこと、何が正しくて何が間違っているかということに照らして、自分を振り返ること。
4.中学生・高校生は、なにをするべきか?
ここまで読んだけど、エージェンシーもコンピテンシーも身に付けるの難しそう。諦めてゲームしよっと!
たしかに、ここまで書かれていることは、かなりのできるやつでもないと、なかなか身に付けることができないことのように思えます。
それに、受験勉強が大変で、そのほかの能力なんて考えてる暇ないよ…と思うかもしれません。
しかし、エージェンシーにもあるように、まずは「目標を立てること」、また、コンピテンシーにもあるように「自分を振り返ること」といった、日々の生活の中でできることをするのが大事だと思います。
また、受験勉強も、ただ「受験のため」と思って勉強するだけではなく、「将来、AI に負けずにやりたい仕事をやるため」「論理的な力を身に付けるため」と考えると、もっとやる気が出るかもしれませんね!
よし!ぼくも AI に負けないように頑張って、いつかタイムマシンを作って産業革命より前の世界に住むぞ!
5.さいごに
さいごに、白井さんのお話にも出てきた「東ロボくん」についての本を紹介します。
田熊さん、白井さんのお話を聞いて AI や教育に興味を持ち、完全なる「にわか」ですが、筆者も買って読んでいるところです。
作者は数学者の新井紀子さんという方で、「東ロボくん」プロジェクトについて、数学がどのように発展してきたかについて、AI にできることについて、今の教育について…などなどが、とても読みやすく書かれています。
また、筆者は高校生のとき、数学がとても苦手で、国立大志望なのにテスト前日になっても数学の問題が解けな過ぎて、泣きながらテスト勉強していた記憶があるくらいですが、
この本を読んで、今更ながら数学が少し好きになった気がします。
というわけで、AI や「東ロボくん」に興味を持った人、数学嫌いを直したい人にもおすすめです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
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中の人がお答えします。