ファラデーの電磁誘導の法則について解説!練習問題付き
ファラデーの電磁誘導の法則について、意味や公式を解説します。またコイルの巻き数が変化した場合の誘導起電力、自己インダクタンスとの関係についても解説しています。練習問題も掲載していますので、理解できているか確かめたいという人も必見です。
▶レンツの法則の考え方 基本はあまのじゃくの発想で解ける!
▶アンペールの法則(右ねじの法則)!基本から例題まで
▶誘導起電力とは?公式や向きの求め方を理解するためのポイントを紹介!
【 目次 】
1.ファラデーの電磁誘導の法則:e=-ΔΦ/Δt
1-1.誘導起電力の大きさ:単位時間あたりの磁束の変化
1-2.誘導起電力の向き:磁束の変化を妨げる向き
2.巻き数Nのコイルの場合:e=-N(ΔΦ/Δt)
2-1.誘導起電力の大きさ:単位時間あたりの磁束の変化のN倍
2-2.誘導起電力の向き:磁束の変化を妨げる向き
3.ファラデーの電磁誘導の法則と自己インダクタンスの関係
4.ファラデーの電磁誘導の法則を使って練習問題を解こう!
4-1.磁石が移動したときコイルに発生する起電力
4-2.レールを滑る導体棒に発生する起電力
5.【番外編】ファラデーの電気分解の法則は化学で用いる!
6.まとめ
ファラデーの電磁誘導の法則:e=-ΔΦ/Δt
導線を円形に巻いたコイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすると電流が流れます。この起電力を誘導起電力と呼びます。
この誘導起電力は「ファラデーの電磁誘導の法則」に従います。ファラデーの電磁誘導の法則について詳しく見てみましょう。
誘導起電力の大きさ:単位時間あたりの磁束の変化
ファラデーの電磁誘導の法則は次の式で表されます。
eは誘導起電力、Φはコイルを貫く磁束、tは時間を表し、Δは変化分という意味です。ですから、この式は時間とともに変化する磁束が誘導起電力の原因であることを表現しています。磁束が変化しなければ誘導起電力は生じません。
ここで、磁束とは磁石のN極とS極とを結ぶ磁力線の集まりです。磁石の力を受ける物体は磁束の方向に力(磁力)を受け、力の大きさは磁力線の本数に比例します。
磁束の大きさは磁力線の本数で表します。したがって、コイルを貫く磁束はコイル内の磁力線の本数で表します。
誘導起電力の向き:磁束の変化を妨げる向き
磁束の変化が誘導起電力の原因であることがわかりました。では、誘導起電力の向き、言い換えれば電流が流れる向きはどのように決まるのでしょうか。
これはレンツの法則で決まります。誘導起電力は磁束の変化を妨げる向きに生じるというのがその内容です。レンツの法則について学びたい人は「▶レンツの法則の考え方 基本はあまのじゃくの発想で解ける!」をご覧ください。
さて、導線を流れる電流の周りには、アンペールの法則に従って磁場ができます。アンペールの法則について学びたい人は「▶アンペールの法則(右ねじの法則)!基本から例題まで」をご覧ください。磁場は導線を中心とする円形で、電流に垂直です。つまり同心円です。その向きは、電流の向きに進むように右ねじを回すとねじが回る向きです。これをコイルにあてはめると、コイルの内側に磁束ができることがわかります。その向きは、電流が流れる向きを右ねじが回る向きに合わせたときにねじが進む向きです。
磁束がないコイルに磁石が近づくとコイルを磁束が貫くようになります。レンツの法則はコイルはこれを“嫌う”ことを言っています。ファラデーの電磁誘導の法則の式
e=-ΔΦ/Δt
にマイナス符号がついているのは、生じた誘導起電力によって、外部から加えられた磁束を打ち消す向きに磁場ができるような電流(誘導電流)が流れることを表しています。
巻き数Nのコイルの場合:e=-N(ΔΦ/Δt)
次に巻き数がNのコイルに生じる誘導起電力を見てみましょう。
誘導起電力の大きさ:単位時間あたりの磁束の変化のN倍
この場合、N個のコイルが直列につながっていると見ることができます。これは起電力
e=-ΔΦ/Δt
の電池を直列につないだのと同じことになります。したがって、巻き数Nのコイルに生じる誘導起電力はN個のコイルに生じる誘導起電力の和となり、
と表されます。
誘導起電力の向き:磁束の変化を妨げる方向
誘導起電力の向きは1個のコイルの場合と同じで、レンツの法則に従います。その結果、コイル内の磁束が変わるのを妨げる向きに磁場が生じるような誘導電流が流れます。
ファラデーの電磁誘導の法則と自己インダクタンスの関係
ところで、コイルに流れる電流は磁場を作り出しますが、この電流が変化したら何が起こるでしょうか。当然コイルを貫く磁束が変化しますが、コイルはこの変化を“嫌い”ます。するともとの電流の変化を妨げるように誘導起電力が生じます。この現象を自己誘導と呼びます。
コイルに流れる電流Iによって生じる1巻きのコイルを貫く磁束をΦとすると、電流の周りの磁場の強さ、すなわち磁束の大きさは電流の大きさに比例しますから、比例係数をLとして
NΦ=LI
と表すことができます。Nはコイルの巻き数です。このLを自己インダクタンスといいます。自己インダクタンスを用いると
Φ=LI/N
となるので、
e=-N(ΔΦ/Δt)
に代入すると、L,Nは定数ですから、
e=-N(ΔLI/NΔt)
=-N(L/N(ΔI/Δt))
=-L(ΔI/Δt)
となります。すなわち、自己誘導起電力は電流の時間変化に比例します。
ファラデーの電磁誘導の法則を使って練習問題を解こう!
では、公式を使ってみましょう。
磁石が移動したときコイルに発生する起電力
50回巻きのコイルに磁石を近づけたところ、コイルを貫く磁束が時刻t=0[s]では0.4[Wb],t=5.0[s]では0.9[Wb]でした。コイルに発生した誘導起電力はいくらでしょうか。
解答
e=-N(ΔΦ/Δt)
にN=50,ΔΦ=0.9-0.4=0.5[Wb],Δt=5.0-0.0=5.0[s]を代入すると
e=50×0.5/5.0=5.0 [V]
となります。
レールを滑る導体棒に発生する起電力
図1
図1のように、抵抗をつないだコの字形の導線上に導体棒を置いて回路を作ります。回路に垂直な磁場があるとき、この棒を一定の速さで動かすと回路には電流が流れ、抵抗ではジュール熱が発生します。
導線の長さをL[m]、磁束密度をB[Wb/m2]、導体棒を動かす速さをv[m/s]とするとき、発生する誘導起電力の向きと大きさを答えてください。また、抵抗をR[Ω]とすると、ジュール熱はいくらでしょうか。
解答
図2
導線がΔt[s]間に進む距離Δs[m]は
Δs=vΔt
と書けますから、回路が囲む面積はΔS=L×vΔt[m2]増えます。したがって、この間の回路の磁束の変化ΔΦは
ΔΦ=B×ΔS=B×(L×vΔt)=BLvΔt [Wb]
となります。よって、誘導起電力の大きさをV[V]とすると
V=ΔΦ/Δt=(BLvΔt)/Δt=BLv ・・・(答え)
となります。
誘導起電力の向きは磁束が増えないように誘導磁場が発生する向きですから、P→Q(図1)です。(答え)
また、回路を流れる電流I[A]はオームの法則
V=RI
と
V=BvL
より
I=V/R=BLv/R
と求まるので、抵抗で発生するジュール熱は
Q=VI=BLv×(BLv/R)=(BLv)2/R
となります。
導体棒に生じる起電力は磁場中の電荷に働くローレンツ力によっても説明できます。ローレンツ力について学びたい人は「ローレンツ力を慶應生がイラストで丁寧に解説!円運動との関係も!」をご覧ください。
【番外編】ファラデーの電気分解の法則は化学で用いる!
磁場の変化によって起電力が発生することを述べる法則が「ファラデーの電磁誘導の法則」です。ファラデーは電気の研究を幅広く行い重要な発見を重ねたので、その名が付いた法則は他にもあり、化学分野では「ファラデーの電気分解の法則」が知られています。
この法則の内容は、電気分解を行うとき、析出する物質の質量は流した電気量に比例し物質の電気化学当量に反比例するというものです。ここで比例定数としてファラデー定数
F=9.65×104 [C/mol]
が用いられます。これは電子1mol当たりの電気量を示します。流した電気量Q[C]は、電流をI[A]、電流を流した時間をt[s]とすると
Q=It
と表されますから、このとき流れた電子の物質量n[mol]は
n=Q/F=It/F
で表されます。
物質の電気化学当量は、1molの物質を析出させるときに必要な電子の物質量(との比)として定義されます。Na(ナトリウム)は1、Cu(銅)は2など。電気化学当量をNとすると、析出する物質量は
n/N=(It)/(FN) [mol]
となります。
まとめ
誘導起電力は、回路を貫く磁束の変化を妨げる向きに磁場が発生するように生じます。あたかも回路が磁束の変化を“嫌う”かのように。このことを言っているのがレンツの法則です。
そして、発生する誘導起電力を求める法則がファラデーの電磁誘導の法則です。この法則には誘導起電力の向きも含まれていますから、レンツの法則は無くてもよいように思われます。実際、無くても大丈夫です。
けれども、誘導起電力の向きをレンツの法則で考え、大きさをファラデーの電磁誘導の法則で考えると、向きと大きさのそれぞれに集中して現象を考えることができます。問題を解くときにも、このように切り分けて考えると見通しがよくなるので、この2つの法則を使い分けられるように練習してみてください。